ダーシャのブログ

ゆるゆる生きてていいじゃない

支配者

その部屋には多くの科学者たちが集まっていた。部屋には沢山の料理が並べられていた。部屋の中は騒がしく、皆酷く興奮した様子であった。

「ついにやりましたね。」

「ああ、目標は達成だ。」

若い研究員と白髪頭の教授が感慨深げに話していた。

「歴史に名を刻みましたね!」

「科学賞間違いなしですよ!」

中の良さそうな二人組は、この結果により得られるであろう功績に胸を躍らせていた。それ以外にも、その他大勢が口々に自らの思いを語っていた。

*

コンピュータの発達によって、自然界の仕組みが解明された世界で、人類がすべての種族を支配下に置くまでそう時間はかからなかった。

太古から自然界は、人類にとって人知が及ぶものではなく、脅威であった。それは、人が番号で管理されるようになってからも変わることはなかった。

人類の利益を優先するにあたり、環境や他種族の保護は障害でしかない。しかし、複雑な仕組みで成り立っている自然界にむやみに手を加えては、それこそ人類の損失につながってしまう。その事実を理解しているからこそ、人類は障害を受け入れ続けてきた。だが、仕組みが解明されたことで、自然界は人類にとって恐れるべき存在ではなくなってしまった。最大の障壁が消え去った世界で、ある学者がこう声をあげた。

「私達人類は長年自然界という脅威に苦しめられてきた。自然災害や感染症等で沢山の人間が殺されてきた。だが、もうその心配はない。自然界を人類の支配下に置くことにより、他種族全てを支配下に置くことが可能になる。災害で人が死ぬことがなくなり、絶滅する種族もいなくなるのだ。私達人類でさえコンピュータで管理されている。これは当たり前の行為だ。今後人類は支配者という立場の自覚を持たなければならない。」

この考えは多くの人々に支持され、ついには世界連盟の議会でもこの議題が取り上げられるまでになった。連盟議会は投票によってこれを議決。しかし、いざ実行するにあたって、動物愛護団体の猛反発を受けたため、再度様々な議論が為されたが、結局は地球環境の保全と種族保護を目的に全種族が支配の対象となった。

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3565・12・12

いつからなのだろうか。ペットを飼わなくなったのは。生き物を殺しても何も思わなくなったのは。子供の頃は愛しみや悲しみを抱いていた気がする。確かに、時代とともに生活は良くなったし、今はとても幸せだ。不満なんて見つける方が難しい。だけど、何だか分からないけど、少し不安だ。人は進化し続けていると聞くけれど、そもそも進化とは何だ?今、本当に人類は進化しているのか?

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4786・6・4

今日、学校から家に帰るとリビングで両親が座っていた。父さんは仕事のはずだったけど、熱でも出して早退してきたのだろうか。二人は僕を席に座るように言った。僕がそれに従って椅子に腰を下ろすと、母さんが泣きそうな顔をしながら「少し悲しいお話があるの。」と話し始めた。父さんは黙って下を向いていた。

少し前からニュース等で話題になっていた身分制の導入。人類の発展には欠かせないらしいけど、多くの人々が反対の声を上げていたから、近々行われる世界連盟での議会でも、否決されると思っていた。心配することはないと思っていた。でもそれは間違いだった。

今日行われた議会で、世界連盟は身分制を導入することを議決した。もともと議論が行われる前に、一部の人達によって、身分制の導入にあたっての方法やそれによる問題点等は全て解決されていた事もあり、即日全世界に向けて発表、そして施行された。その影響で父さんは会社を辞めさせられたらしい。

身分制だなんて間違っている。世界の上の奴らは、過去の歴史を繰り返すつもりなのか。世界連盟は馬鹿の集まりなのだろうか。

僕は今、怒りが湧くと同時に、恐怖を感じている。ずっと自分は、人類は、全員が支配者だと思っていた。他種族を管理するのが義務だと思っていた。でも違う。これからは違う。怖い。嫌だ。僕はこれから一体どうなるのだろうか。

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5913・9・23

昔は身分制がなかったらしい。学校の歴史の授業で先生が言っていた。しかも、その頃人には仕事を選ぶ権利があったらしい。僕はとても驚いた。そんな世界で人々は生きていけたのだろうか。好きな仕事を人それぞれがする事で、人が誰もやりたがらない仕事は出てこなかったのだろうか。奴隷がやっているような仕事は誰がやっていたのだろうか。考えても分からない。特に、奴隷がいないというのは想像すらできない。

小学生の頃に奴隷は人により管理されていて、人と他種族の中間だと教わった。父さんは今日も奴隷を抱ける店に行った。母さんは隣の部屋で掃除が上手に出来なかった奴隷の躾をしている。奴隷がいない時代では、男性が女性を襲うなんてこともあったらしい。今ではそんな事しなくても、お店に行けば無料で奴隷を抱くことができる。遺伝子操作で性癖にあった奴隷が幾らでも作れるから、毎日沢山の人が男女問わず訪れているらしい。

好きな仕事についても社会が回らなくなるだけ。奴隷がいないと今の生活は成り立たない。

なんだ。今の方が良いじゃないか。やっぱり身分制は正しいね。さあ、僕も奴隷と遊ぼう。今日も可愛い悲鳴を上げてくれるかなぁ。

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6426・10・30

ついに私は小さな世界を作り上げる事に成功した。この研究を始めてもう四十年が経つ。長年の努力がやっと実を結んで大変感動している。これによって、人類はますます支配者としての意識を高めていくだろう。文明の発展もさらに加速するということだ。研究メンバーは当初から幾分と増えた。私を信じてついて来てくれた人達だ。とても感謝している。近々パーティでも開きたいものだ。

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その部屋には多くの科学者たちが集まっていた。部屋には沢山の料理が並べられていた。部屋の中は騒がしく、皆酷く興奮した様子であった。

「ついにやりましたね。」

「ああ、目標は達成だ。」

若い研究員と白髪頭の教授が感慨深げに話していた。

「歴史に名を刻みましたね!」

「科学賞間違いなしですよ!」

中の良さそうな二人組は、この結果により得られるであろう功績に胸を躍らせていた。それ以外にも、その他大勢が口々に自らの思いを語っていた。

そして、年配の科学者が部屋にいる全員に話しかけた。

「みんな、集まってくれてありがとう。今日はパーティだ。楽しんでいってくれ。人類の更なる発展を願って、乾杯!」「乾杯!」

全員がグラスを掲げた後、少し飲み物を飲んだ。どうやらそれが合図だったらしい。パーティは始まったようだ。

その後しばらくして、年配の科学者が声を上げた。

「今一度、私たちの研究の成果を見ようではないか。」

その科学者は部屋の中でかなり権力のある人物だったのだろう。

「そうしましょう。」

周囲は一斉にそれに従い、部屋の中央に置かれている研究の成果を覗き込んだ。

「やはり、素晴らしいですね。」

「途中経過を見るのも面白いですよ。ほら、こうすると、当時の生命体が書いた日記が読めます。」

「ふむ、他種族との関係に疑問を覚えたが故の『人は進化し続けていると聞くけれど、そもそも進化とは何だ?今、本当に人類は進化しているのか?』か。まだまだ支配者としての自覚が足りんな。」

「少し時代が進むと……あっ、奴隷が出てきました。子供の書いた日記ですね。『さあ、僕も奴隷と遊ぼう。今日も可愛い悲鳴を上げてくれるかなぁ。』ですか。やんちゃな子だったんですね。」

皆、その世界の人々が書いた日記を見ながらワイワイと盛り上がり、とても楽しそうに話していた。

それを見た年配の科学者は嬉しそうに言った。

「人類が作り出した小さな世界の生命体が、さらに小さな世界の生命体を作り出した。これによって、人類はますます支配者としての意識を高めていくだろう。文明の発展もさらに加速するということだ。」

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人間は支配者としての自覚を確実なものにしてから、世界の文明は目まぐるしく発展し続けている。

人類がその自覚を忘れない限り、それは今後も変わることはないだろう。

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「まったく……下等種族が調子に乗りよって。支配者を名乗るなど言語道断。後で教育を施す必要があるな。」

遠い遠い所から神様は見つめていました。その世界の全てを統治する存在でした。

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一羽の鳥が空を飛んでいました。鳥はお腹が空いたため、ご飯を探しているところでした。ふと近くの木を見ると、大きな毛虫が一匹、木の枝を這っていました。

願ってもいないご馳走です。鳥は早速虫に近づくとパクリと一口に食べてしまいました。

「なっ、し、しまっ……」

神様は鳥に食べられてしまいました。

おしまい。

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支配者の上には、支配者がいて、さらにその上には支配者がいて……

皆知らずに自分達が一番だと思っている。

「知らぬが仏」とはよく言ったものだね。

世界は今日も回っている。常に回っている。