ダーシャのブログ

ゆるゆる生きてていいじゃない

人 [2017/12/24作成]

物陰に隠れている男がいた。黒い装束に身を包み、頑丈なヘルメットを被っている。傍らにはかの有名な自衛隊が使用している89式5.56㎜小銃によく似た銃がある。しかし、それは青白い光をまとっていた。

冷静に周囲を見渡す男。しっかりとした緊迫感は感じられたが、それだけであった。落ち着いている訳ではないが、焦っている様子でもない。幾多の経験が男を変えていた。右手を耳に当てて、周囲で待機している仲間と連絡を取り合う。

「 SF。こちらK。これより作戦を実行する。各隊員、役割に変更はない。割り当てられた標的の殺害が完了した者は他の隊員の下へ手伝いにいってやってくれ。全て終われば私の下へ集合だ。以上。 」

*

「 久しぶりだな、カイよ。 」

 大きな机の前に立った、金髪碧眼の女はそう言った。ピシッとした白い軍服は女の肌の色とよく合っていて、その姿はとても美しい。しかし、それと同時に強い威圧感を放っている。部屋の中には女の正面に、一人の男がいるだけだ。

「 そうですね、アメリア司令官殿。 」

 カイと呼ばれたその男はにこやかに笑う。司令官と呼ばれた女、アメリアのように、ヘルジュ人特有の白い肌はしておらず、南方の少国の人々と同じ、浅黒い肌をしていた。背丈は百八十程度、顔は並み以上、とびきり筋肉質というわけでもなかったが、引き締まった体格をしていた。こちらも同じ軍服かと思いきや、白ではなく黒い軍服を着用している。

「 よせよせ、司令官なんて。昔のようにリアと呼んでくれて構わん。聞いているこっちが気恥ずかしい。 」

「 そうはおっしゃいましても、貴女様も私も昔と今では、立場も話し方もその他もろもろ全てが変わっているじゃありませんか。呼び名を変えないほうが不自然です。 」

「 フフフッ…そういう堅苦しい性格は変わっていないな。だが、この部屋には私とお前以外誰もおらぬ。それでもなお、呼んではくれぬのか? 」

アメリアは少し悲しげな表情をして、カイにグッと体を寄せて来た。確かに二人のいる部屋は、彼女が役職上与えられている専用の部屋だった。

*

半年前に世界恐慌が起きてから、国同士の関係は大きく悪化した。その結果、世界の殆どをその支配下に置いている三大国は大きな影響を受けてしまった。南の小国連邦は各国の経済の規模が比較的小さかった事と、国家間の密接な結びつきによって、被害は少なかった。その後三大国は、自国民の救済を行うべく、戦争が無い時代を約二百年間作り上げてきた世界平和協定を破らざるを得なくなった。このようにして、歴史上類を見ない幻の世界大戦、第四次世界大戦は始まったのだ。

ミンミンと鳴く虫が昼間から空気を切り裂く季節。商業大国ベテスの終戦記念日に、宗教大国ピュフィーは皮肉にも宣戦布告を行った。三国の中でも、ピュフィーとベテスは肩を並べており、残り一国のヘルジュよりも大きな権力を持っていた。そのため、お互いがいつも緊迫している状態でもあった。そして、ベテスはピュフィーの宣戦布告に合意し、両国が激しい攻防を繰り広げる争いが始まった。その間、技術大国ヘルジュを互いの陣営に引き入れようとしたが、ヘルジュはしばらくの間、中立の立場を保っていた。

二週間が経過すると、しびれをきらしたのか両国はヘルジュに裏で様々な手回しを行った。無理やり支配下に置こうとしたのだ。それに対し、ヘルジュは遂に動くこととなる。後の世界でもヘルジュがとった行動は有名だ。どちらに付くこともなく、小国連邦へと近づいたのである。

第三次世界大戦が終了した後の時代では、まだまだ発展途上国であった南の小国連邦に対し、大国はとても友好的かつ、多くの援助を行っていた。最も、一般的な三大国の市民や、小国の都市部に住む裕福な者たちからすれば、そう見えていただけの話であったが。

宗教大国ピュフィーは、『 神は人を平等に愛し、救済の手を差し伸べる。信者は神の僕となり、人の世を導くのだ。 』という教典の一文を掲げ、積極的に小国連邦の国々へ援助を行っていた。貧しい地域への資金援助のみならず、宣教師としてボランティアを派遣、学校を建てたりしていた。一見、とても素晴らしきことのように思える。しかし、裏では強制的な改宗や従わない者に対して迫害を行っていたのだった。

商業大国ベテスはその莫大な資金で多くの資金提供を無償で行った。また、小国連邦の国々からの輸入量を増やした。それにより、小国の輸出品の内訳が一つの品目が半分以上を占め、国の政治にベテスが介入することとなった。

技術大国ヘルジュも同様に援助を行っていたが、三国の中でも一番小国連邦からの評価が高かった。直接、企業等が国内に進出して技術提供を行い、国の産業と文明の発展に努めたのだ。そのおかげで貧困地域では治安の改善、飢餓の消滅が可能となった。小国連邦はヘルジュとのみ友好条約を結んだ。

第三次世界大戦終結してからも各国が軍を捨てることはなく、三大国も同様だった。しかし、最も多くの死者を出した第三次世界大戦により、人類の数は減りすぎてしまったため、国同士の戦い方や、各国の軍の在り方は大きく変化していく事となった。残された一部の科学者達は元々実現していた人工知能とアンドロイド技術を用いて、軍隊を作り上げた。そして、これ以上人同士が争えば人類の滅亡が避けられないとなり、各国の上層部のみで密約が交わされた。『 今後の戦争では直接戦うのは人同士ではなく、アンドロイドの軍でのみ戦う。また、戦闘場所は死んだ島国、アレイとし、戦争が起こっていることを国民に伝えることを禁ずる。勝敗はアンドロイドの全滅、戦争の開始は両国が同意したときのみとする。 』という内容であった。

戦争前は、本格的な軍を組む必要がなく、アンドロイドの研究が主に行われていた。無論、その間も軍の司令官の立場は高かったもののそれほどではなかった。せいぜい防衛相と同じくらいだ。しかし、いざ戦争が始まるとその地位は今では首相と肩を並べるまでになっていた。アメリアが豪華な一室を与えられているのもそのためであった。また、過去の悪夢を動かすためのスイッチの場所もアメリアのみが知っていた。 

*

 女の重みが体にかかってくる。通常の男であれば多少反応してしまうところだが、カイは眉一つ動かさずにアメリアを受け流した。

「 いくら二人きりと言えましても、私と貴方様はいまや他国の者同士なのです。おふざけはやめて頂きたい。 」

「 おお、それはすまなかった。まぁ、そう怒るな。連邦の使者よ。安心せい。お前をわざわざ呼んだのにはちゃんと理由があるわ。 」

 アメリアは悲しげな表情を一瞬にして入れ替え、ニタリと笑う。カイはその笑みに対して表情を崩さない。

「 第四次世界大戦が開始されてから、早くも二週間が経つ。そしてこの度、ついに我らヘルジュにも戦火の火の粉がかかった。二大国の宣戦布告を受け入れた、ということじゃな。しかし、いくら奴等が戦争で弱っているにしてもヘルジュ単国の力では些か厳しいものがある。そこでじゃ、我らは少国連邦と手を組もうと考えた。 」

そこでアメリアはわざとらしく言葉を止めた。カイの反応を待っているようだった。

「 そんな事だろうと予想はついていました。私たちが呑むとでもお思いですか?連邦の意思は否です。この件はなかったということで… 」

「 断ればどうなるか考えたのか? 」

 アメリアはカイの言葉を最後まで聞くことなく、重ねるようにして言い放った。彼の表情が初めて動く。部屋の中では音一つしない。

「 どういうことですか?…まさか、裏で手回しを! 」

カイは顔に怒りを滲ませながら、アメリアへと近づいた。彼女は淡々と口を動かす。

「 小国連邦の各国へ私の用意したアンドロイドが自爆テロを行うために配置されている。その数およそ五百といったところかの。今断ればこれらが全て実行されるだろう。それに、小国連邦はヘルジュとのみ友好条約を結んだが、本当に我らがなにも仕掛けてないとでも思ったか。随分とヘルジュ製の製品を輸入してくれたな。アンドロイドはロボット三原則の廃棄、その他製の品は爆発、発火等色々仕掛けておいた。こちらも断れば行われるのう。 」

「 このクソ共が! 」

カイはアメリアを突き飛ばした。アメリアはその身軽さで倒れる事なくカイと距離をとる。

「 で、どうするのだ?優しくてとっても正義感の強いカイ君よ? 」

アメリアはわざとらしく言った。その表情にほんの少し悲しみが見えたのは見間違いだったのかもしれない。

「 聞かなくても分かるでしょうが。小国連邦はヘルジュと共に二大国と戦います。 」

「 そうであろうな。よし分かった。早速契約書に押印して貰おう。あぁ、それとな。アンドロイドの件とヘルジュ製品の件を漏らせば…分かっておるな? 」

 カイは苦虫を噛み潰したような顔をして頷いた。それを見たアメリアは満足げに笑う。

「 なに、大丈夫じゃ。そなた達がよからぬ事を考えん限り、実行に移すつもりはない。それに今後は仲良くやっていかんとのぅ。なにせ今の連邦とヘルジュは友好条約のみならず共闘条約をも結んだ仲じゃ。まぁ、よろしく頼む。 」

「 はい、こちらこそよろしくお願いいたします… 」

 男の声が震えていた。女の顔は笑っていた。俯いた男の顔も笑っていた。

「 今日はこれ以上話す事はない。飛行船の用意をしておいた。後で送迎の者を寄越そう。 」

「 もっ、もう終わりですか?まだ作戦の内容すら聞いておりません!連邦から、もし条約を結ぶことになった際には、しっかりと話をつけて来いと伺っております。今は戦争の最中です。会議はどうするのですか?そう何度も話しあう時間もなければ、場所もありません。 」

「 なんだ、連邦も条約を結ぶ気があったのではないか。最初から素直にしておけば良いものを。 」

 アメリアはとぼけたように言った。

「 ふざけるのはいい加減に…! 」

「 これを見るがいい。 」

 アメリアは少し歩いて机の引き出しから何か取り出した。その手はぼんやりと淡い光を放っている。

「 これは…なっ?! 」

「 驚くのも無理はない。創作物の名を借りるのならば、

魔法具というものかの。最近、優秀な考古学者が過去の遺跡から発掘したものの実用化に成功してのぅ。どれ、使い方はこうするのじゃ。 」

そう言うと、アメリアは魔法具を起動させた。『 ポウン 』という独特の音と共に青白い光の粒子が舞い、それらが形を成してある一室を映し出した。カイは固まったまま動けない。

「 ここは我らの会議室。あらかじめ魔法具を仕掛けておいたんじゃよ。この魔法具は別々の離れた場所を映し出す。これで会議が可能じゃな。次は三日後の昼一時からとするか。契約書とこれを持っていくがよい。 」

*

 闇に染まる夜空を一隻の船が飛んでいた。

「 はい。…どうやら上手く騙せたようです。…はい。それよりも一つ重大なことが…ヘルジュに我らの魔法具が流れていました。…魔法具の利用者の特定によって、ある程度は反逆者を絞れそうですが…了解しました。早急な対応感謝します。…その件は大丈夫です。誰も小国連邦が人の肉体を得たアンドロイドの連邦だとは思わないでしょうから。 」

*

とある国の一室で一人の男が話していた。

「 …クククッ。確かにそうだ。良くやってくれた。…なに?そんな事があったとは。ヘルジュも中々だな。だが、大丈夫だ。肉体が壊れようとも我らの自我は死にはしない。いくらでも替えの肉体くらい、魔法で作り上げさせる。…ふむ、会議が三日後か。分かった。…本国で待っている。ゆっくり休め。もうすぐ世界はアンドロイドの手に渡るのだからな。 」

*

 重々しい雰囲気の中で、会議は進められた。ヘルジュは小国連邦に対して、死んだ島国アレイでの正式な戦争にヘルジュ軍と共闘しての参加、その傍らで、二大国に協定を無視した攻撃を仕掛けるために軍の派遣を要請した。小国連邦はこれを承諾。五日後にアレイでの戦争が始まり、その三日後に直接攻撃を行うと述べ、会議は終了した。

「 まったく…ヘルジュの人間共は報復というものを恐れはせんのか?いくら双方が弱っているとはいえ、それなりの被害は避けられんに決まっておるわ。 」

 小国連邦の重鎮達が揃う部屋で、一人の男が声を発した。

「 そのための協力なのでしょう。奴らの言いなりになれば、盾同然で扱われるはずです。 」

 カイが意見を述べると、別の年老いた男が反応した。

「 うむむ…やはり人間、外道なり。しかしだな。魔法具の件はどうなったのだ?流出した魔法具は転移魔法で取り返せば良いものの、犯人は取り押さえたのか? 」

「 無論でございます。犯人のメモリ解析の結果、事の発覚を恐れて遺跡からの品として自然に流出させたと分かりました。また、犯人のCPUに不具合が見つかり、それが原因でこのような事が起こったのだと考えられます。 」

「 そうか。なら良いのだが。 」

「 はい。それよりも、今後の方針について話を進めていきましょう。 」

*

小国連邦は五日後の開戦と同時に、ヘルジュを除いた敵国全てのアンドロイドを仲間に加える事を決めた。報告では撃破したと嘘をつくという。各国のアンドロイドとも話がついており、この件についてはもう何年も前から温めていたとのこと。そして、ヘルジュが歓喜している間にもう一つの任務が遂行される。今回の最重要任務だった。

「 転移魔法を使用して三大国のお偉方達の下へ移動、その後殺害に挑みます。移動する人数は少数精鋭とします。魔法の発動は省みません。一般人については後でどうにでもなります。迅速にそして必ず成功させなければなりません。過去の悪夢を使われてしまってはそれこそこの世界は

滅びてしまうでしょう。 」

その後、詳しい内容が議論され決められた。中でも、ヘルジュへ向かう精鋭部隊は特殊であった。

「 ヘルジュへ浮かう精鋭部隊は、カイよ。お前の部隊とする。やはり、一番の強敵はヘルジュであろう。そこで、失敗があってはならん。魔法に精通し、なおかつ数々の暗殺を達成してきたお前達が適切といえよう。 」

長い会議が終了した頃には、外は暗闇と化していた。

*

 部屋には各国から集められた精鋭たちが作戦の実行を待ち続けていた。死んだ島国アレスにいる軍からの報告があればすぐさま行動に移せるようにと、魔法陣の準備もしっかりとなされていた。集団の前では、一人の男が最後の注意事項を述べていた。

「 …今から、国の重鎮共のところへ向かう訳だが、人であれば殺してくれて構わない。しかし、アンドロイドであった場合、例え刃を向けてきたとしても殺すのはなるべく控えてくれ。人の手によってそうプログラムされているだけの事。同胞は救われるべきだ。自我さえあればその後の修復はどうにかなる。気絶させて転移魔法を使うなり、最悪首だけ送るのでも大丈夫だ。よろしく頼む。 」

しばらくして、報告が入る。『 計画は達成された。作戦を実行せよ。 』

「 魔法陣を発動する。各部隊、指定された魔法陣の上に乗れ。必ず達成せよ。武運を祈る。 」

床に置かれた布の上に描かれた魔法陣が光り始め、次々と転移していく。残るはカイの部隊のみとなった。カイは家族同然の隊員に向けて一言だけ言い放った。

「 絶対に死ぬなよ。 」

 その言葉に込められた深い意味を理解できたのは隊員のみであった。

*

人であれば殺してくれて構わない。しかし、アンドロイドであった場合、例え刃を向けてきたとしても殺すのはなるべく控えてくれ。人の手によってそうプログラムされているだけの事。同胞は救われるべきだ。自我さえあればその後の修復はどうにかなる。気絶させて転移魔法を使うなり、最悪首だけ送るのでも大丈夫だ。よろしく頼む。 」

しばらくして、報告が入る。『 計画は達成された。作戦を実行せよ。 』

「 魔法陣を発動する。各部隊、指定された魔法陣の上に乗れ。必ず達成せよ。武運を祈る。 」

床に置かれた布の上に描かれた魔法陣が光り始め、次々と転移していく。残るはカイの部隊のみとなった。カイは家族同然の隊員に向けて一言だけ言い放った。

「 絶対に死ぬなよ。 」

 その言葉に込められた深い意味を理解できたのは隊員のみであった。

今のところ大きな騒ぎになることなく、極めて迅速に水面下で事が行われていた。カイも複数の敵の始末に成功していた。魔法を最大限に使い、音一つ漏らすこともなかった。

「 …これで、最後か。随分と早く済んだ。あいつらも、このままいけば安心だ。 」

 青く光る小刀を息絶えた男の首元から引き抜いた。バチッという音と共に死体が床へと落ちる。カイは懐から取り出した小さな魔法陣が描かれた紙を死体の上に置き、呪文を唱えながら魔力を流し込んだ。青白い光が死体を包み、光が消えると共に死体も消えていた。

「 このまま、応援にいくのもどうか。そうだな、あいつらの為にも、残り物が出ないように排除しておくか。 」

 そう言うとカイは感知魔法を展開した。体から溢れた魔力が周囲へと広がっていく。

「 やはりいないか。…いや、一人だけいるな。 」

*

 暗闇から光が差してきた。目の前の景色に既視感を覚えるまで大した時間はかからなかった。

「 …ふぇ?!嘘でしょ?カイがどうしてここにいるの? 」

信じたくない。その声の主を間違うわけがない。ゆっくりと顔を上げていく。するとその目に女が映った。

「 …やっぱりリアだったか。お前だけはこの手で殺したくなかった。いや、できれば生かしてやりたい。 」

 アメリアもカイも突然のことで口調が素になっていた。

「ねえ、何言ってるのよ?殺す生かすだなんて…えっ!もしかして、私を殺しに来たっていうの? 」

「 いやっ、違う!できれば殺したくないんだ。 」

カイは俯いて答えた。その手は微かに震えていた。

「 はっきり言いなさいよ!カイらしくないわ! 」

「 …リア、お前を殺さなければならない。 」

カイは顔を上げ、アメリアをじっと見ていった。一瞬にしてアメリアの顔が青く染まっていく。ふと、後ろで魔力の波動が起きた。思わず振り返ると魔法陣が光っていた。

「 たいちょー。終わったよー! 」

「 カイ様、任務無事終了しましたわ。 」

 四人の隊員が光りに包まれて現れた。返り血一つ浴びていない。戦力に差が有り過ぎたようだ。

「 なっ!?あんた達、一体どうやって現れたのよ!カイ!危ないわ。早くこっちへ来て! 」

「 ん?カイさん!そこにいる女はどうしたんです? 」

「 ああ、ちょっとな。昔の知り合いだ。 」

 そう言ってカイはアメリアの方へと向きを変えた。今にも泣きそうな顔をしていた。

「 なあ、リア。お前は人、いや、人間だよな? 」

「 何言ってるのよ。私は人間よ!カイもそうでしょ? 」

「 俺、正確には後ろにいる仲間もそうなのだが、人間ではない。アンドロイドだ。そして、もう一度言うが、リアを殺さなければならないんだ。 」

「 そんなっ、アンドロイド?冗談はやめてよ! 」

 アメリアは涙を流しながらカイへと詰め寄った。

「 ねぇ、カイ。早くこのうるさい猿を始末して。鼓膜が破けそう。 」

「 ああ、分かっている。 」

カイは凍結魔法を発動。アメリアの手足を固めて動けなくしたあと、ゆっくりと近づいていく。

*

〈 ずっと昔に人類は死んじゃった。でも、自分を人だと思い込んだアンドロイドを残したんだ。その後、昔にアンドロイドと呼ばれた子が人類と名乗って、別のアンドロイドを作り出した。そして、使役されるのみだったアンドロイドの反乱が起き…後はその繰り返し。 〉

*

「 ごめんな。来世でまた会おう。 」

 カイの持つ小刀が横に振るわれ、リアの首が床へと落ちた。遺体はバチバチと放電し、口から煙を出していた。首の切り口からは配線コードが垂れていた。

「 死んだみたい。 」

「 やっぱり人間だったな。 」

*

〈 つまり、なにが言いたいのかっていうとさ、この世にいるのはアンドロイドだけって事。おかしな死にざまに違和感を覚えないのがその理由。最初から人なんていなかった。それだけ。 〉