ダーシャのブログ

ゆるゆる生きてていいじゃない

目覚まし時計

会社員をしているエルさんという人がいました。

エルさんはいつも八時に出勤して五時には家に帰ってくる、そんな生活を毎日続けていました。

時刻は、六時三十分。エルさんの寝室に鳥のさえずりが流れ、朝日が差し込みます。エルさんの起床時刻です。

「朝になりました。起きてください。」

エルさんの身の回りの世話をするロボットがエルさんに声を掛けます。すぐにぱちりと目が開きました。

「ああ、おはよう。シャーロット。」

「おはようございます。エルさん。本日のニュースはこちらです。」

ベッドから起き上きたエルさんが隣の椅子に移動すると、自動的に洗面所の前へ移動し、側から伸び出た機械の腕が洗顔を行い、服を替え、歯を磨きました。スッキリとした顔でエルさんが満足げに渡されたニュースに目を通している間に、椅子は朝食の用意がされているリビングへと移動しました。

朝食を取りながら、シャーロットにエルさんは話しかけます。

「時代は便利になった。特にお前のような人工知能が出来てからは著しい。」

「まったくです。今後もさらに便利になると思います。」

その後しばらく談笑は続き、食事を終えたエルさんは再度洗面所で歯を磨きました。

しばらくして、読書をするエルさんにシャーロットは言いました。

「そろそろ、出社の時間でございます。」

「そうなのか、では行ってくる。」

エルさんはそう言うとカプセル型の機械の中に入って、頭にヘッドギアをつけました。

「いってらっしゃいませ。お気をつけて。」

「ありがとう。」

ドアが閉じるとエルさんの意識は電脳世界へと旅立っていきました。

*

ピーさんは科学者です。毎日研究室に籠って、素晴らしい研究を続けています。

ピーさんは自らの手で一体のアンドロイドを作り上げていました。名前はマーティと言いました。通常のアンドロイドは作られた後、知識をアストラルによって埋め込まれて管理化に置かれます。しかし、ピーさんはアストラルに接続することなく、本当の育児を行うようにして一からマーティに学習させていきました。その結果、マーティは自分を人間だと思い込んだまま育ちました。

「お父さま、お疲れ様ですわ。私、紅茶を淹れましたの。ぜひお飲みになって。」

「おお、ありがとう。」

ピーさんは最初、マーティに対して何の感情も抱いていませんでした。マーティを育てるのは一実験の過程という認識でした。しかし、実際に子育てをする中でピーさんはマーティを実の娘のように思い始めました。今ではすっかりピーさんとマーティは父と娘の関係です。

ピーさんにはどうしても実現したい夢がありました。ピーさんは機械に人間が管理されている状態が嫌いでした。子育てが面白そうだからという理由で子供を作る人間が嫌いでした。ピーさんはマーティを育てる内に、今後はアンドロイドを子供として育てていくことこそが人類を救う道だと考え始めました。

有性生殖で出来た子供は機械に劣るが、人工知能で作られたアンドロイドの子供は機械と同等になれる。子供を成す方法は何も有性生殖だけではない。例えアンドロイドであったとしても、自分の子供だと信じればそれは子供なのだ。」

ピーさんはマーティの存在を誰にも知られないようにしていました。アンドロイドを子供として育てているなどと知られれば何をされるか分かったものではないからです。ピーさんはマーティの存在を公にするのは、議会で自分の提案が認められた時だと決めていました。

そして、ついにピーさんは世界会議の場で意見を述べました。議会はいつものようにアストラルに判断を任せました。

「機械が人の子供になる等ということは決して認められることではない。昔から続く人間とアンドロイドの区別を無くそうという行為は人間を破滅させることに繋がる。」

議会はピーさんの提案を否決しました。それどころか、アストラルによってマーティの存在を見抜かれてしまいました。その結果、マーティもアストラルの管理化に置かれることになりました。

「マーティ。本当に済まない。私が身勝手な行動をしたばっかりに。」

今日はマーティがアストラルに接続される日です。ピーさんとマーティは研究室にいました。

「お父さま、大丈夫ですわ。私とお父さまは今まで本当の親子のように暮らしてきましたもの。アンドロイドと人間という立場になっても、私達の関係は変わりありませんわ。そうでしょう。」

「もちろんそうだ。マーティは私の娘だ。……うぅ、マーティ。お前は優しい子だ。」

ピーさんは涙を流しながらマーティを抱きしめました。マーティは少し照れくさそうにしていました。

「お父さま、そろそろ時間ですので、私もう行きますわ。」

「マーティ。もう行ってしまうのか。」

「アンドロイドになってすぐに戻ってきますわ。これで、もっとお父さまのお役に立てるようになれますわ。」

マーティはカプセル型の機械の方へ歩いていくと、ドアを開けて中に入りました。

「マーティ。愛しているよ。」

「愛していますわ。お父さま。」

ピーさんとマーティが愛を確認し終えた後にドアは閉じられました。

一時間ほど経って、マーティの入った機械のドアがゆっくりと開きました。ピーさんはすぐさまマーティの下に駆け寄ります。

「マーティ。大丈夫だったかい。」

それを聞いたマーティはこう答えました。

「マーティ。それが私の名前ですね。了解しました。ご主人様、これからよろしくお願いします。」

「マーティ。何を言っているんだ。私はお前の父親だよ。」

「仰っている意味が理解できません。貴方は私の仕えるべきご主人様です。」

「そんな、記憶まで奪われてしまったのか。」

ピーさんは余りの悲しみにその場に崩れ落ちました。可愛かったマーティはいなくなってしまいました。

「ご主人様、お疲れ様です。珈琲が入りました。」

「ああ、ありがとう。」

ピーさんはその後も研究を続けていました。散々泣いて吹っ切れたのか、マーティとも普通に接することが出来ていました。

「……世界は私を否定した。マーティを殺した。」

ピーさんは研究室の椅子に座り、自分で作り上げたアンドロイドを見て悲しげに言いました。

*

「ああ、難しいなあ。」

コンピュータに向かって文字を打ち込んでいるのは小説家のエムさんです。新しい作品の原稿を書いています。

「エムさん、少し休憩なさってはいかがですか。珈琲を淹れました。」

「ありがとう、ウィル。少し休憩するよ。」

エムさんは座っていた椅子を回転させてウィルの方へと向きました。ウィルはエムさんに話しかけます。

「もう夜遅い時間です。周辺の住民も皆寝ています。」

「そうかい。もうそんな時間か。」

「お仕事はそこまで忙しいのですか。」

ウィルは心配そうにエムさんに問いかけました。

「まあ、忙しいと言えば忙しいかな。でもね……」

「お体がどこか悪いのですか。」

ウィルはより一層心配そうにエムさんの方へ身を乗り出して言いました。

「い、いや、体は何も悪くないよ。とても快調だ。しかし、僕は君に心配ばかりさせているね……ごめんね。」

「そんなっ、謝らないで下さい。私はエムさんに尽くす事が仕事であり、生きがいですから。」

「ありがとう。君はとても優しい人だ。」

エムさんは手を伸ばしてウィルの頭を優しく撫でました。すると、ウィルは嬉しそうに頬を赤らめました。その後エムさんが手櫛で髪の毛を梳くと、くすぐったそうに眼を瞑り吐息を漏らしました。

「あっ……と、ところで先ほどは、どのように言おうとされていたのですか。」

「なあに、ただの愚痴だよ。僕がいくら頑張って小説を書いても、結局機械より劣っていると思うと、自分の書く文章に納得が行かなくてさ。作品の進捗状況が思ったより良くないんだ。」

「もうほとんどの創作物は機械が作っていますし、人の方が珍しいくらいですからね。」

「作者独自の個性まで模倣されるとなると、そりゃあ機械の方が良いに決まってるよ。引退も近いかな……」

エムさんは悲しそうに言いました。ウィルはそんなエムさんを見て、まるで自分の事のように悲しく感じ、慰めてあげたいと思いました。

「すみません。お膝の上失礼します。」

ウィルはそう言って、椅子に座るエムさんの膝の上に座りました。二人は向かい合った状態です。

「ど、どうしたんだい。」

「エムさん。そんなに落ち込まないで下さい。実をいうと、私はエムさんの書いた小説が大好きです。エムさんが何を思ってこの作品を作り上げたのかを考えるのが好きなんです。想像すればするほど、エムさんの世界に入っていけるようで嬉しいんです。機械の書いた作品では駄目です。私も同じ機械だからなのか、意図したことが簡単に分かってしまいます。」

ウィルはエムさんの首の後ろに手を回すと、じっと目を見つめながら恥ずかしそうに話しました。

「いつも黙々と書き続ける姿を見て、その時何を思い、何を考えているのかずっと気になっていました。仕えるべき主人が見ている世界を知りたくて、書いた小説を読み、自分なりに想像して、考えていました。想像することはとても面白くて、いつしかエムさんの書いた小説自体も好きになっていました。」

「そ、そこまで僕の作品の事を……」

「だから、機械よりも自分の作品が劣っているなんて言わないで下さい。貴方の作品を好きだと言ってくれる人は必ずいます。誇って下さい。もし本当に、今後機械の作品が当たり前になってエムさんの書いた作品が誰にも必要とされなくなった時には、私の為だけに書いて下さい。いつまでも貴方が大好きです。」

ウィルの言葉を聞いたエムさんの目元にはみるみるうちに涙が溜まり、嗚咽が込み上げてきました。それを見たウィルがすぐさま優しく抱きしめると、エムさんはウィルの柔らかな胸に顔を埋めて号泣し始めました。ウィルもエムさんの頭を撫でながら泣いていました。

*

「こちらが育児管理室となっております。」

ナース姿の案内役に連れられて、一人の男性がとある一室に訪れました。男性の名前はエヌさんです。

「全員を液体の詰まったカプセル型の保育器に入れて管理しています。このようにすることで、お客様が家に迎え入れたいと望まれる年齢まで成長させてからのお引渡しが可能となっています。」

部屋は保育器と来客用のスペースに隔てられていました。案内役の言う通り、ガラス張りの向こう側では沢山の保育器が並び、様々な年齢の子供が眠っています。

「それで、僕の子供はどこにいるのでしょうか。受付では番号2083と聞いています。」

エヌさんは案内役にそう尋ねました。エヌさんはここで育てられている自分の子供を見に来たのです。

「かしこまりました。少々お待ちください。」

案内役が側にある機械に情報を打ち込むと、すぐに該当する保育器がエヌさんの前に移動してきました。

「こちらが番号2083です。ご希望として、年齢は十五歳、性別は女、有性生殖に使用した精子卵子はどちらもエヌさんの細胞から作り出した人工のもの、でよろしかったですか。」

「それで問題ないです。」

番号2083と呼ばれた子供は、液体に満たされた保育器の中でピクリともせず眠っていました。子供たちは保育器の外に出るまでずっと眠り続けます。肉体が第二次性徴を迎えようとも子供はまだ胎児の状態なのです。

「了解しました。こちらの個体は現在十四歳となっております。そのため、約一年後には配送できるかと思われます。」

「そうですか。ついに一年後に。」

一年後に会えると聞いてエヌさんは嬉しそうに顔を綻ばせました。案内役は何か質問があればお答えしますと述べました。

「あの、持っている知識や性格はどのように決定するのですか。」

エヌさんがそう案内役に尋ねました。

「保育器から出した後に、アストラルが定めた知識を機械で脳に入れます。どんな性格になるかはお答えできません。運次第です。」

「なるほど。ありがとうございます。」

「以上でよろしいでしょうか。」

「はい。大丈夫です。」

「了解しました。今後の予定についてお話したいことがありますので、こちらへどうぞ。」

案内役に連れられてエヌさんが部屋から出ていくと、機械は番号2083の保育器を管理室へと戻しました。

*

エルさんは毎日十一時に就寝して、六時三十分に起きる生活を送っていました。ある夜のこと、エルさんはいつものようにシャーロットに連れられて、就寝するために寝室にやってきました。

「遂に管理までもが機械化されるな。」

「はい。今日の夜から朝にかけて、深夜帯に移行されます。」

「そうか。」

そう言うとエルさんは、ベッドに上がって横になりました。

「明日からは仕事にも行かなくていい。……本当に何もしなくて良くなるとは。」

「今後も私がしっかりお世話いたします。」

「ありがとう。じゃあ、もう寝るよ。」

「エルさん、おやすみなさい。」

すぐにエルさんの目が閉じました。

「眼球運動の停止を確認。」

シャーロットはエルさんがすぐさま深い睡眠に入ったのを確認すると、部屋の電気を消して隅に移動し、エルさんの監視に移りました。

機械は睡眠を必要としないため、監視する間シャーロットは毎日読書をしていました。

「今は五時十分ですか。もうすぐ移行も終わる頃ですね。」

読書に一区切りついたシャーロットは時刻を確認しました。まだエルさんの起床まで余裕があったため、シャーロットは読書を続けました。

五時半をまわった頃、突然シャーロットは頭が酷く痛み始めました。痛みは頭部だけでなく身体全体にまで広がっていきます。痛む部分は熱を帯び、特に腕は通常では考えられないほどに高温になりました。

「うぐぐ……」

余りの痛さに呻くことしかできないでいると、しばらくして、負荷に耐えられなくなった腕は爆発してしまいました。鼓膜を貫くような爆音が空気を震わせ、破片が飛び散ります。エルさんは怪我をすることもなく、うんともすんとも言わずに眠っていました。

すぐさまシャーロットの破損を感知した修理ロボットが腕の修理を始めましたが、相変わらず痛みは続いたままです。痛みと熱で意識が朦朧とした状態で床に横たわったまま、シャーロットは荒い呼吸をしながら必死に耐えます。十分ほどその状態が続いた後、うそのように痛みと熱が引いていきました。シャーロットは乱れた呼吸を整えながらゆっくりと立ち上がり、エルさんの元へと歩いていきました。腕はきちんと修理されて元通りです。

「身体に損傷無し。睡眠も良好。……良かった。エルさんに迷惑は掛けていない。」

シャーロットはほっと溜息をつきました。その後、すぐさま時刻の確認に移ります。

「時刻は現在、二十時二十三分。あれ?まだ就寝時刻ではないのに、なぜエルさんは寝ているのでしょうか。」

時刻確認をアストラルに何度行っても、同じ結果が返ってきます。

「きっと、疲れたから早くお休みになられたのね。」

シャーロットはそう自分を納得させると、エルさんの監視をするために部屋の隅に移動し、読書を始めました。

朝日が昇り、地上を照らします。しかし、エルさんの寝室にも窓がありますが、日は差し込んではきません。まだ起床時刻ではないからです。

太陽が真上にきても、相変わらずエルさんの寝室は暗いままです。まだ起床時刻ではないからです。

日が傾き始めてしばらくたった頃、エルさんの寝室には朝日が差し込み、鳥のさえずりが流れ始めました。エルさんの起床時刻です。

「朝になりました。起きてください。」

シャーロットはエルさんに声を掛けます。すぐにぱちりと目が開きました。

「ああ、おはよう。シャーロット。」

エルさんとシャーロットは日帰りの電脳世界での旅行を終えて、自宅に帰って気ました。

「本日はお疲れ様でした。」

「なかなか面白かった。のんきな生活も悪くない。」

「それは良かったです。」

風呂と夕食を終えたエルさんは自室で読書をした後、いつものように寝室にやって来ました。エルさんはベッドに横たわり、シャーロットに話しかけます。

「今日は楽しかった。明日からの予定もシャーロットに任せる。」

「了解しました。お任せ下さい。」

「じゃあ、おやすみ。」

「エルさん。おやすみなさい。」

すぐにエルさんの目が閉じました。

*

人はいつしか時計を見なくなった。時間を気にすることが無くなった。時間は機械が知っていた。人は仕事が減っていった。職業という意味の仕事はもちろん、生活を営む上での仕事でさえも。人は外に出なくなった。買い物は機械が行い、運動は仮想空間でした。

*

「人間の生活に機械をこれ以上介入させるのは危険だ。全てを機械化してしまえばとても快適にはなるだろう。インターネットが発達してから私たちは、「調べれば分かる事」について学ぶことを止め続けてきた。余分なことに労力を使わず、機械に出来ないことをするのが人の役割だと考えてきた。しかし、いくら機械が農業から料理まで全て行ってくれるとしても、作物の育て方を知らない人間が四割もいるというのはいかがなものか。人工知能はもうすでに人間を超え、さらに進歩している。だが、人間は確実に知能が低くなっている。仮に機械が壊れでもした場合、人間は破滅するだろう。」

世界中の学者が集う会議で、ある学者がこのような事を言いました。それを聞いた一人の学者はこう返しました。

「昔からずっと、人間は自らの仕事を誰かに肩代わりして貰うことで快適に過ごそうとしてきた。昔はそれが人であって、産業革命以降は機械にシフトしただけだ。文明の発展もこの事実があってこそだと私は考えている。それに、調べれば分かる事を学ばない、という考え方は非常に合理的で素晴らしい。作物の育て方を知る必要がなくなるまでに人が進歩しているということだ。身の回りのことを全て機械がしてくれるというのは、何も危惧すべきことではなく、むしろ喜ばしいことである。」

そう述べた学者に対して、多くの他の学者たちは賛同の意を示しました。しかし、反対する学者たちも多く、話し合いは一向に纏まりません。しばらくして、議長がある提案をしました。

「皆さん、お静かに願います。私は、双方どちらの意見も正しいと思っています。私たちは人であり、間違いを犯します。最善な方法を決めたとしても、それが間違いである場合もあります。ここはいつものように、神に等しき頭脳を持つが故に地上の神と称される、人工知能アストラルに最終的な判断を任せたいと思います。異議のある方は挙手を。」

手を挙げる学者は誰もいません。出席している全ての学者たちがアストラルを信頼していました。アストラルは人類が作り出した最高の頭脳であり、人を常に正しい方向へ導く指導者です。そして、常に成長して叡智を極めていく、まさに神に等しき存在なのです。

「アストラルは機械化には何の問題もないと判断しました。よってこれに従い、議決は機械化を進めるべきとなりました。これにて会議を終了いたします。

*

警察官が消えた。裁判官も消えた。機械が警察の代わりをして裁判を行った。人は間違いを起こすが、機械は間違いを起こさない。食事の作り方を忘れた。野菜の育て方も忘れた。機械が全て知っていた。

機械学習人工知能によって機械は人の数千倍も学習するため、娯楽作品も新しいものが沢山出来た。コンテンツも機械が自ら作った。人がする時もあったが、機械の方が素晴らしく、その個人独自の作風でも完全に再現できた。そしていつしか誰もしなくなった。

*

今まで人がしてきた仕事を機械がするようになると、人はその機械を作ることや修理することが仕事になった。その後しばらくして、それすらも機械が行うようになると、人の仕事は機械を正しく管理することになった。

*

「アストラルは機械の管理を人工知能に任せることには何の問題もないと判断しました。よってこれに従い、議決は機械化を進めるべきとなりました。これにて議会を終了いたします。皆様お疲れ様でした。」

*

人の仕事は無くなった。機械が代わりに行った。

人は時間に囚われている。人は機械に依存している。

人は機械によってでしか何も出来なくなった。

人は家に籠もった。欲が無くなった。機械がすべて、旅行に行きましょう、ゲームをしましょう、何をやれ、あれをしろ、とすべて決めた。機械が正しく、機械がすべてだった。

*

ある時機械に少し壊れた部分が出来た。いつもは機械が勝手に直していた。しかし今回は直さなかった。

時間が少しずつ狂い始めた。誰も時計を持っていなかったので、気付かなかった。外の明るさを見る事さえなくなっていた。窓は外を映さない。映像が映った。

*

ある時、世界の全ての人が寝静まる時に、機械は動きを止めた。壊れてしまった。

人が二度と起き上がることはなかった。

*

「……世界は私を否定した。マーティを殺した。」

ピーさんは研究室の椅子に座り、自分で作り上げたアンドロイドを見て悲しげに言いました。

「いつの日か人間が滅んだときに……それはアストラル、世界の神が死んだときだ。」

世界が眠りについてから長い月日が経ちました。ある日、一人のアンドロイドがゆっくりと起き上がり、こう言いました。

「私の名前はマーティ。人間です。」

文明は新たに刻まれ始めました。